穴があったら入りたいハードボイルド
2008.02.09(00:58)
俺だ。ボギーだ。俺は肩でドアを押し店内へと入った。
身を切るような寒さの中から、50年代のジャズの流れる
暖かい店内に入った途端、身体中の血液が再び活発に
流れ始めるのを感じた。生き返った気分だ。
俺は素早く店内を見回した。
奥へと延びる10席ほどのカウンターには、
手前側にに初老の男が一人、中ほどには20代後半のレディが一人座っている。
ハードボイルドな俺にとって、周りの状況を一瞬で把握することは、
生きるために不可欠なことだ。
狙われているのかって?
いや。
ただの趣味だ。
俺は一番奥の席に腰をおろした。
「マスター。」マスターが振り向く。
「酒だ、酒持ってこんかい!!ワレ!!!」
ちがう…。
俺は痺れるような低い声で、「バーボン、ダブル。ロックだ。」
しかしどうやら痺れたのは俺だけのようだ…。
俺は煙草に火を点けた。紫煙が漂う。
ハードボイルドな男の煙草といえばラッキーストライクと相場は決まっている。
メンソールなどもってのほか、女子供の吸うもんだと業界では言われている。
だいたいメンソールは○○○になるから、吸っちゃいかんとじいちゃんに教わった。
にもかかわらず、俺はマルボロライトメンソールを吸う。
なぜなら俺は異常性欲の持ち主だからだ。ガハハハハ!
少しメンソールで抑えないと…。
嘘だ。一度言ってみたかっただけさ。本当の理由は…覚えてない。
話は変わるが、実は店に入った時から、
俺は横のレディが気になってしようがない。
細かいことまで言わないが、早い話が俺の好きなタイプだ。
ど真ん中のストライクと言ってもいい。
これをみすみす逃してはハードボイルドと名乗る資格はない。
だからと言ってがっついてもいけねぇ。あくまでスマートにな。
『お嬢さん、シェリーでも一緒にどうだい?』今日はこれでいこう。
鷹が獲物を狩るように切れ味鋭くスパッといくぞ。まあ見てろって。
俺は席を立ち、レディにの傍らに。
そして声をかけようとしたその瞬間、
ほんの一瞬だが弱気な気持ちが心をよぎった。
それが動揺を誘った。しかし声は止まらない。
そこで口からでたものは、
「おじょ、じょ、じょ、じょ、じょ…。」
やっちまった…。
最悪だ。
『ガキにションベンさせてんのか、おいボギー??』
さすがの俺もうろたえた。頭の中真っ白になっちまった。
この危機を乗り越えるにはどうしたらいいんだ!考えろ!
そうだ、逃げろ!
俺は一万円札を抜き出すとマスターに、
「釣りはいらねえ、とっときな。」と言い残しスタコラ逃げ出した。
バーボン一杯800円。残りは全てチップと消えた。
俺は冬の夜の寒さを骨の髄まで感じながら、2時間歩いて家へと帰った。
また会おう。
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